タイ版ドラフト緊急特番!「お母さんさようなら」
このニュースが日本でも報じられると、「あー、そろそろソンクラーンの季節か」と気分は南国に飛んでしまいます。
ソンクラーンとはタイにおける旧正月のことで、4月13日から15日にはお清めのための水が町中を飛び交い、別名「水かけ祭り」としても日本でも知られています。このソンクラーンの前にタイで注目されるのが、ドラフトです。
日本でドラフトと言えば、プロ野球選手になりたい新人選手を各チームに振り分ける会議として知られています。チームの代表が獲得を希望する人気選手との交渉権をくじ引きしする瞬間には様々なドラマが凝縮されていて、野球とは別にドラフトというジャンルさえ確立されつつあります。
しかし、「ドラフト/Draft」という英語には「選抜」の他にも「徴兵」という意味もあります。くじを引いて選抜するドラフトと、徴兵するドラフトが一体となったのが、そう、タイなんです。
タイの軍隊である王国軍は基本的には志願兵によって維持されていますが、その不足分を補うために行われるのが、徴兵ドラフト。この「徴兵ドラフト」という表現は「頭痛で頭が痛い」や「我が〇〇軍は永久に不滅です」同様に、同じ意味の言葉が繰り返される二重表現なのですが、タイの場合は徴兵を選抜するということでギリギリセーフ。英語では「Lottery Draft」つまり「くじ引き徴兵」と訳されます。
20代の男性を対象に徴兵検査が行われ、その中から志願兵では足りない兵士をくじ引きで補います(女性っぽい男性や極度の肥満者などは免除となる場合も)。その数は約10万人。対象者は5人に1人の割合で、兵役につくことが義務付けられるのです。
そもそも兵役を志願していない若者が対象ですから、このくじ引きにすべての運をつぎ込んで、兵役回避を願うのがほとんどです。もともとタイの人々は信心深く、仏だけでは飽き足らずインドの神さまにも律儀にお祈りするほどですから、兵役回避のために若者はめちゃくちゃ祈ります。タトゥーをキメて、鼻や唇にピアスをぶちこみまくる青年らも、この時期になると普段より強めに祈ります。
タイは日本と違って、年寄りよりも子供を大切にする習慣があり、時にそれが子供の甘やかしにつながっていると指摘されることもあります。これまで好き勝手に生きてきた少年たちも、20代になりこの徴兵ドラフトを目前にすることで大人になることを意識するのかもしれません。
そんなわけでタイの徴兵ドラフトには、野球のドラフト会議に勝るとも劣らないドラマが凝縮されています。運悪く赤紙を引いてしまった男子はお先真っ黒とばかりにその場で卒倒し、日頃の神頼みのおかげか兵役を回避できた男子は大喜び。周りで見ている大人はそんな彼らの一喜一憂をニタニタと楽しそうに眺めます。
タイの徴兵ドラフトとは、若者が大人になるための通過儀礼でありながら、一種のエンターテイメントでもあるのです。
それでは最後にご覧ください。「タイの青年、徴兵にいく」です。