大マダガスカル紀行 第九話
「世界一デタラメな鉄道FCEに乗る」

マナカラでのんびりとした二日間を過ごした後、朝7時発の列車に乗るべく鉄道駅に向かった。

出発30分前に到着してみると、すでにチケット売り場には長蛇の列が出来上がっているではないか。これが嫌だから事前に予約しておきたかったんだよな。

チケット購入しようとする乗客はたくさんいるのに、開いている窓口は一つだけ。

横入りする輩はいないが、前方に並んでいる知り合いに金を渡してチケットを代理購入してもらおうとする人たちはたくさんいる。

そのためなかなか前に進めない。

それでも7時前には無事にチケットを購入できた。

やはり外国人は一等席しか買えず、お値段70,000アリアリ。タクシーブルースの値段と比較すると3倍ほどになるが、それは所要時間も同じこと。

これがFCE鉄道が「世界一デタラメな列車」と紹介される所以でもある。

この鉄道、走行距離は160kmほどながら、その所要時間は12時間から24時間という恐ろしく遅く、恐ろしくいい加減なタイムテーブルで運行しているのだ。

平均時速も20km以下なのに加えて、走っているよりも途中の駅に停車している時間の方が長いとも言われるデタラメぶり。

この鉄道は道路が整備されていない山間の村々にとって人と物を運ぶ重要なライフラインでもあり、そのため各駅では大量の荷物が下され、また積まれ、その量によっては停車時間も変わってくるため、早くても12時間、遅ければ24時間かかるという規格外のフレキシブルさを発揮しているのだ。

しかしその一方で山々をゆっくりと走るというだけあって、景色は素晴らしいともっぱらの噂。

出発予定時間になっても発車する気配がない列車に乗り込むと、一等席には僕しかいなかった。

正確には車掌のようなお兄ちゃんと警官も乗っていたが、金を払っている乗客は僕だけ。

しかし二等席にはすでに満員の乗客であふれていた。

FCE鉄道は予定時間から30分遅れて、のそりと動き出した。

しかしすぐに停車し、駅でもないのに、線路脇に止まったトラックから荷物を運び込んでいる。

こんな調子がずっと続くのだ。

マナカラからフィアナランツォアまで約20駅ほどに停車するが、その度にクソ長い休憩時間が設けられる。車掌にどれくらいで発車するのかと聞いても、わからないという。

置いていかれるとまずいので、停車した駅で朝食を買い込みすぐに席に戻るも、その後1時間くらい平気で停車したままだった。

こんな時間が各駅で繰り広げられる。

確かに風景はいいのだが、とにかく停車疲れも甚だしい。

しかも周りに乗客もいないので話し相手もいない。とにかく暇だった。

新しい駅に到着するたびにGPSで位置を確認するのだが、全然進んでいない。

夕方前になっても100kmも進んでいなかった。

一体、いつ到着するのだろうか。

日が暮れてしまうと、車窓も真っ黒になり、しかも高度が上がっていくため寒くなる。

景色も楽しめないし、寒いし、列車は全然動かない。

俺は一体ここで何をしているんだろうか、と真剣に悩んでしまった。

そして目的地フィアナランツォアに到着したのは深夜1時。

163kmの道のりを17時間ほどかけて走り抜いたということになる。

24時間テレビなら喝采を浴びるかもしれないが、走っているのは列車である。

遅いにもほどっていうものがある。

深夜のフィアナランツォアに到着した僕はタクシーに乗り込み近くの安宿に連れて行ってもらったが、どこも満員でなかなか見つからない。やっと空き部屋が見つかったベッドに横になると、あとは泥のように眠るだけだった。

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FCE鉄道について

マダガスカル唯一の旅客列車。

走行距離163km。所要時間(公称)10時間〜、(実際)17,8時間〜、(最長)24時間。

外国人は一律70,000アリアリの一等席しか売ってもらえない。

ボロい鉄道のためよく揺れるし、キーキー鳴るし、ホコリっぽいし、かなり疲れる。

タクシーブルースより列車の方が楽でしょ、とかいう軽い気持ちで乗ると痛い目にあう。

景色はいいがその走行時間の長さから、日が暮れてからは何も見えないため暇つぶしの道具を持って行った方がいい。

夜はかなり寒い。

とにかくしんどい列車の旅だった。

フィアナランツォアの宿

タクシーブルース発着場の正面

シングル一泊 25,000アリアリ(トイレ、シャワー付き)

wifiあり(マダガスカル最速クラス・Youtubeもストレスなく見れる)

タクシーブルース発着所近くの典型的な安宿。


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